第25回:40歳代のアメリカ大学院留学編 -その13(セミナーを通じて受ける刺激)- / 佐々木大

 
 

大学在学中は、各界で活躍するビジネスプロフェッショナルたちの話を聞ける機会が少なくありません。スタンフォードの場合も活躍中の卒業生たちも多かったので、話が聞けるチャンスがあれば積極的に活用するように心がけていました。

今回は私が参加した講演会の中から、印象深かった2名をご紹介したいと思います。

 

その一人目は、インターネットラジオ分野で注目のスタートアップ企業「Pandora」の創始者Tim Westergren氏です。

 

昨今、インターネットで聴く放送局なんて決して珍しい話ではありませんが、このPandoraが注目されているのは決定的な理由があります・・。

実はこのネットラジオ局は、自分の好みを登録しておくことで、それに合わせた曲を選曲して流してくれるという優れものなのです!

 

例えば、リスナーが好きなアーティスや曲を登録しておくと、Pandoraが持つ分析コンピュータが、その膨大な データベースの中からテイストに近いアーティストや曲を自動的に選んで流してくれるのです。また、その曲を気に入ったかどうかをユーザーがフィードバックできるようになっていて、それによりPandoraのデータベースがリスナーの好みを、よりきめ細やかに分析していくことができる仕組みになっています。つまりリスナーは、Pandoraを聴けば聴くほど自分の好みに近い曲が選曲されるようカスタマイズされることになるのです。その背景には、 Pandora内には、たくさんのミュージックアナリストと呼ばれるスタッフがいて、すべての曲を分析して特徴づけをしているそうです。そのPandoraの創業者であるTim Westergren氏はスタンフォード大の卒業生なのですが、そんな彼との座談会というイベントがあたったので参加してみました!

 

ところが、参加者はなぜか普通の人たちばかり・・・。シリコンバレーでこの手のセミナーに参加すると、いかにも「シリコンバレースタイル」という感じのIT関係者で埋め尽くされているのですが、このイベントはまったく異なる雰囲気でした。しかも会場は、Palo Alto(スタンフォード大学のあるエリア)にある、何の変哲もない地元の公民館・・・。

その秘密は彼の話で理解できました。Pandoraは完全な口コミ戦略で、基本的にPRのコストはかけてないとのこと。彼の話によると、Pandoraの ユーザーは、一人あたりが平均して6人に口コミの輪を拡げてくれているので、一人ひとりのユーザーを本当に大切にしているとのことでした。創業者のTimは、 Pandoraでオンエアする音楽探しのために全米中を行脚しており、それだったら各地のユーザーたちと交流する場を設けよう、というアイディアで生まれたのがこの座談会だったそうなのです。すでに150か所くらいで座談会を開いたそうです。ということで、この座談会は、IT関係者には一切広報されておらず、基本的にその地域に住んでいるユーザーを郵便番号で判別してメールで告知をしたのみだったようです。参加者がまったく普通の人たちばかりだった理由がようやくわかりました。

 

ということで、参加者は実際にPandoraを使っているヘビーユーザーばかりということで、とにかく会話が熱かったのが印象的でした! 私自身も、Pandoraに対しては、ビジネス的な関心ももちろんありましたが、実際に利用しているユーザーの一人でしたので、大変興味深く話を聞くことができました。創業者自らが全米を行脚して、 ユーザーとの交流を深めていくなんて大変効果的なPR戦略だと思いました。「ユーザーの好みを分析してadjustしていくなんて、音楽以外にもなんだって活用していけますよね? もしかして教育分野にも?」という質問を投げかけてみたところ、彼の答はもちろん「イエス!」 Pandoraの動きにはその後も注目していましたが、今では全米で大変人気のあるインターネットラジオという位置づけになっているようです!

 

二人目は、Stanford Law Schoolのローレンス・レッシグ教授です。ご存知の方も多いかと思いますが、彼は「クリエイティブ・コモンズ」 の創設者として大変有名な方です。クリエイティブ・コモンズは、世界中に溢れている「All rights reserved」という著作権を「Some rights reserved」(部分的に著作権で保護されている)という概念に置き換え、世界中のユーザーが安心してネット上にあるメディアコンテンツを使えるようにという理念で活動している団体です。簡単に言えば、写真であれ音楽であれネット上にアップされているコンテンツは、作者が希望するしないに関わらず著作権で守られているわけですよね。でも作者によっては、ぜひ多くの方にも使って欲しいという希望をする人だっているわけです。でも、他人が使うのはいいけど商用に使われるのは嫌、という作者もいる可能性があります。それなら、作者の希望(作者名等を表記すれば自由に使ってよし、とか商用はダメ、とか作品 の改変はダメなど)を、ある一定のルールによって表示させ、利用者が安心して二次利用できるようにしよう、というのがこのクリエイティブ・コモンズのコンセプトなのです。クリエイティブ・コモンズの表示がされている作品は、そのルールを守って利用する限りは、作者に連絡を入れるなど面倒な手続きをする必要は一切ありません。また、作者にとっても自分の作品を多くの人に安心して二次利用してもらえるというメリットもあるわけです。

私が参加したセミナーは、「Free Culture, Copyright and the Future of Ideas」というテーマだったのですが、このような著作権のテーマでセミナーを行うのは今回で最後とのこと。彼によれば、その後はpolitical corruption(政治的腐敗)にフォーカスしていくとのことでした。

なぜ彼がそのような決断をしたかと言うと、米国のこれまでの著作権に関する法律の変遷に大いに関係があるとのことでした。皆さんは、著作権ってどのくらい保護されるかご存知ですか?1976年以前は28年間。それを延長申請すればさらに28年間。でも実際、その多くは延長申請をしなかったようです。 その後、 1976年に、著作権者の存命プラス50年という法案が可決されました。その後1992年には延長申請しなくともすべての作品に適用されるようになり、1998年 には著作権者の存命プラス70年という法案が可決されたとのことです。このように保護される期間はどんどん長くなってきたわけですが、彼はこの点に問題点を投げかけていました。前述のように、現在の法律では、著作権者が好む好まざるに関わらず自動的に著作権保護期間が設定されてしまうわけですから、著作者も気にしていないような無名な作品でも、他者が有効利用することはできないわけです。皆さんご存知のように、インターネットの出現によって、我々のアクセスできるコンテンツの幅は大変大きく拡がりましたが、著作権に守られているがゆえに、逆に陽の目を見ずに埋もれていく作品がどれだけあることでしょう。
というわけでレッシグ教授は、このような時代にそぐわない法案は、政治の腐敗から来るものであり、自分はそのテーマにこれからはフォーカスしていこうと決断したとのことでした。

 

著作権に限らず、ネット社会の現代においては、物事に関しての価値観がその数十年前とは大きく異なります。簡単には行かないのでしょうが、やはりその時代の価値観に即した法案やしくみ作りが必要なことは言うまでもありません・・・。

 

このように、実際に考えを実現したという方々の話は、大変迫力がありますし、考えさせられることも多々あります。皆さんも留学すると、このようなセミナーに参加できる機会が多々あると思います。ぜひ積極的に参加されてみてはいかがでしょうか?

 
 
 
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