第10話: 就職活動 in London (前半) / 戸田真裕美

 
 

前回、ヒースローへ向かう飛行機の中で記事を書いていた。あれからもう4か月が経ったと思うと、時がたつ早さにぞっとする反面、まだ昨日のことのように思い出される適度な緊張度が心地よい。前回の終わりは確か、就職しなきゃいけないという意気込みで終わった気がする。そこからの4か月について今日は書こうと思う。

 

1月末から始めた就職活動は、最初は全く手ごたえがなかった。どんな仕事があるのか、どんな仕事がしたいのか、どんな仕事なら出来るのか、そしてどんな仕事だったら食べていけるのか。もっと順序良く考えて行動すればよかったのだが、とりあえず当時はわからないことが多すぎて、どの山から手を付けるべきか途方に暮れ、そして途方に暮れて歩みを止める暇を与えないように常に忙しくしていたと言うべきか。

 

まずやったのは、ロンドンにある日系人材紹介エージェントへの登録。これはほとんどの日本人求職者がやっているとみて間違いない。有名なところで5~6社あるのだが、全て登録した。履歴書をメールで送ると、その後担当者との面談が組まれる。その後うまくいってお仕事を紹介されるとする。しかしそれは求人票をエージェントに送った企業を紹介されるだけで、書類選考を通るかどうか、面接に通るかどうかは自分次第もしくは運次第である。このルートで私は20社ほどの書類選考を受け、10社ほどの面接に行き、2社採用通知、残り8社不採用に終わった。面接でかなり好印象だった企業からもあっけなく不採用通知がくると、自分の感触だったり勘というものが鈍っているのではないかと不安にさえなる。採用通知を下さった2社は、大変申し訳ないが辞退させていただいた。というのは、6か月の産休カバーだったのと、お給料が低すぎて食べていけないと判断したためだ。

 

日系と同時に、ローカルのリクルートメントエージェントにも登録した。流れは同じで、履歴書をメールで送って担当者と面接をする。前者との違いは面接が英語であるということだけであり、あるいは日本語とか日本とかにプラス評価をしないということだろうか。ここで面白いと思ったことは、ローカルの企業の中には、自身で採用部門を持たない企業があるということだ。日本のように新卒一括採用を行う風土が強くないからなのであろうか。こういう会社の採用活動はリクルートメントエージェントにアウトソーシングされており、最初の書類選考や一次面接はエージェント任せ、いよいよ採用が近くなると御大登場となる。このルートで私は4社ほど紹介され、全て書類で落とされた。理由はビザの期限が短いこと(私のビザは2年しか有効でなく、これが切れると会社が私のビザスポンサーとなってお金を払わなければならない。企業によってはビザスポンサーになれない企業もある。これは英国政府よって決められている)、英国での就労経験がないこと、が主な理由だった。東京でやっていたのとほぼ同じような業務内容の職種に応募して不採用だったときに、まさに後者の理由で落とされたわけだが、同じ業務内容なのにいったい東京とロンドンでどういう差があるというのか、問い詰めたい心境だった。

 

次にやったのは、Graduate schemeという、日本の新卒採用のようなものへの応募だった。これは、企業が新学部卒や新院卒に2~3年のOJTをした後、その期間の成績が優秀であれば企業のコアメンバーとして本採用されるものだ(企業によって異なるので、一概には言えないが)。企業によっては国籍だったり学位の種類だったり規定があるので、私でも応募できそうなものにいくつか応募したが、結果は全滅だった。

 

それから、ジョブサイトと一般的に言われる、求人サイトのようなものにも登録した。大学のキャリアセンターが運営しているものもあれば、大手リクルートメントエージェントが運営するものもある。中には、賃貸物件やオンラインショッピングの別カテゴリーとして求人欄があるサイトもある。ありとあらゆるものに登録し、毎日パソコンとにらめっこ、めぼしいものに履歴書を送るなどしてみた。が、これも芳しい結果は出せず。

 

このサイトへの登録は、実に鬼門であった。サイトへ登録するときには、自身の履歴書も企業が閲覧できるように公開する必要がある(mandatoryではないが、こうすると企業からのアプローチが来やすいのは事実である)。もちろん公開用の履歴書には、住所は詳細に書いていないし、メールアドレスもそれ専用のものを作るわけだが、どこからどうして、私の普段使いのメールアドレスや携帯番号にアプローチが来る。それが別の人材エージェントだったり身元の確かな団体からであればいいが、なかには求職者を狙った悪質業者からの誘いもある。

 

私が間抜けにもひっかかってしまったのは、ある人材紹介エージェントからのアプローチだった。面接したいから来てくれといわれ、指定された時間に指定された場所(その会社のオフィス)に向かった。そこはさながらビジネスセンターのようなところで、私のような求職者がひっきりなしに訪れ、そこのコンサルタントと呼ばれるスーツを着た人たちと各ブースで面談をしていた。私に電話をしてきたSteveというコンサルタントが現れ、私をブースに連れて行き、私があらかじめ送っておいた履歴書を見ながら、開口一番、彼はこういった。「君の履歴書はまったくプロフェッショナルじゃないね。僕たちがこれをブラッシュアップしてあげよう、そして君をトレーニングして、そう来月には君はシティ(金融街の意)をプロフェッショナルとして闊歩してるよ!」と。彼は私に質問をさせる間も与えず、こう切り出した。「君はシティで働くプロフェッショナルとして、資格を取らなきゃいけないね。だってここでは日本での職業経歴も君の学位も全く関心をひかないよ。だってどうせ日本でしょ?あ、マスターはロンドンか。。。でも教育でしょ、それじゃあ誰も君にお金を払おうとは思わないよ。君に必要なのは、これから僕が紹介するマイクロソフトのオフィスアプリケーションのスペシャリスト資格だね。」と。ここまでで、腑に落ちないことがてんこ盛りである。第一、私はいつ彼に「シティで働くプロフェッショナル」になりたいと言った?「シティのプロフェッショナル」の定義すらまったく不明である。そして驚くことに彼はこういった。「このオンライントレーニングパックで、君は1日3時間、2週間自宅でトレーニングするんだ。そしたら資格がとれる。全く難しくないよ、みんな合格する。そして君もシティの一員さ。これは1500ポンドするんだけど、今なら1300ポンドにしてもいいし、もし君が今日500ポンドのデポジットを払うなら総額1000ポンドにしてあげるよ。1000ポンドでトレーニング、その他の面接練習や履歴書のブラッシュアップは無料だよ。」

 

…1000ポンド!?たった3週間、賞味30時間弱のトレーニングに1000ポンド?全く理解不能である。彼は先ほど、私の学位はここでは全く関心をひかないといった。丸2年、フルタイムで、純学費だけで20000ポンド以上かけたマスター学位が、1000ポンドのオンライン資格に劣ると?これはどう考えてもおかしいし、それがイギリス金融街の基準だと言うのは、それに翻弄される世界経済をあまりにバカにしていないか??これは明らかに、求職者の足元を見た悪徳商売である。これ以外にも憤死してしまうかと思うようなバカげたやりとりがあったが、あまりにバカバカしいので割愛する。とにかく、最後は私が怒りで啖呵を切るような形でオフィスを後にした。あそこで過ごした時間を返してほしい。

 

話をもとに戻そう。

 

その他には、教育機関、NGO、政府機関など直接履歴書を送った。ホームページで募集しているポジションに応募する。これもあまりうまくいかなかった。ローカルの求職者はもとい、世界中の求職者が殺到する。競争率もべらぼうに高い。そんなわけで、全く採用される兆しは見えなかった。

 

そんなこんなで、2ヶ月が過ぎた。毎日起きて、求人サイトを見て、履歴書を送って、エージェントからの電話を受けて、時々面接に出かける。そんな毎日で、自分がしたい事とやれる事、どちらを優先したらいいのかわからなくなってしまっていた。自分が歩みを止めないために忙しくした結果、行く方向を見失ってしまったのである。しかし、焦りだけは日々つもり、いつ爆発してもおかしくないような、怒りと不安が入り混じった爆弾を抱えていた。不採用通知を手にするたびに、自分には価値がないんだと凹む。不採用通知が来ればまだまし、応募したのにうんともすんとも返事がない、いわば無視されることの方が多いからだ。どうせ今度もダメだろう、と応募の勢いも衰えていく。それに比例するように、銀行の残高が減っていく。あと何か月ロンドンで暮らせるだろう、そんなことすら考えていた。私は何をしにロンドンに来たのか、私がなぜロンドンにこだわっているのか、数年またいで紡ぎあげてきた、私の真ん中にある軸がぐらぐらと揺れて、根本からぽきりと折れるのは時間の問題だった。

 

4月上旬、両親と弟が、私の卒業式にあわせて渡英してくれた。幸か不幸か私は無職であったので、家族と一緒に卒業式ならびにロンドン観光を楽しむことができた。母は私のために、半年かけて着付けを習い、着物で式に出席してくれた。着物の母は卒業生の私より目立ち、完全に母に主役を持って行かれた形になったが…。卒業式自体は簡単なものだったが、私が友達と話したり写真を撮ったりする姿や、式の最中に名前を呼ばれて学長から卒業証書(実はこれはニセモノ、本物は数日後に郵送された)を受け取ったりする姿を見て、両親はかなり楽しんでくれたようなので良かった。お迎えからお見送り、日々の観光、ミュージカルやパブでのビールまで、私の彼が全面的に協力してくれたのもあって、家族がとても楽しく過ごしてくれたようなので、とても満足している。父とは、特別に図書館に入れてもらい私の修士論文が書架に並んでいるのを見せたり、学食でお昼を食べたりもしたが、とても楽しんでいるようだった。

 

両親が日本に帰り、また就職活動の日々が始まった。また同じことの繰り返しか、と思っていた矢先、転機が訪れた。結果から言おう、就職先が見つかったのだ。この結果にたどり着くまでにまた紆余曲折あったのだが、それは後半に書こうと思う。

 

 
 
 
突貫工事型英語トレーニング – English Boot Camp
キャンプの効果    特徴紹介    受講者の声